オーナーであり代表取締役社長であった德勝賢治様はM&A後、約半年間社長を継続し、その後はもともと同社の従業員であった増山耕一氏に社長を引き継ぎ、会長として増山社長の育成や事業運営のサポートを続けています。德勝様がどのような思いで技術承継機構への譲渡を考え、それによりどのような変化が生まれたのかを伺いました。
オーナー単独での経営に限界を感じていた。M&Aには不安しかなかったが、会社と従業員の将来を考えた末の決断だった。
Q.どのような経緯で譲渡を決断したのでしょうか。
Q.M&Aに対する不安はなかったですか。
「所有」と「経営」の分離は、会社組織として在るべき姿であることは頭では分かっていても、他のM&Aの事例を見ると「主従関係」が引き起こす柔軟性が欠如した経営手法化や、ハゲタカファンドのマネーゲームの手段となっている例も有り、不安要素しかありませんでした。そのため、譲渡先選びとして、我が社のビジネスモデル(何処にも所属せず公平に販売出来るという点)から「既存取引先」とは全く関係の無い第三者の所有が必須であり、さらに重要な点として顧客や取引先・従業員に対しての企業文化・社会的存在意義を果たすという責務を継承して頂ける事を重要視しました。また「売買」による手数料収入が目的ではなく、上記理念を理解してもらえる仲介会社の選定も大切な要素でした。
Q.どのような理由から技術承継機構を選んだのでしょうか。
そのような中、2021年01月、技術承継機構(NGTG)に出会いました。初めてNGTGの新居代表とお会いしたのはNGTGの1社目の譲受会社である「豊島製作所」でした。NGTG の理念である「中小企業の経営資源・活動資源を守り、次世代へ引き継ぐ」、具体的手法である「再譲渡は行わない」「ITやDXを使った生産性向上」「管理の横展開化」「企業名(ブランド)の継承」「従業員の継承」「既存取引先継承」等、実務レベルでの実践を目の当たりにしました。
代表自らが工場内の裏口を駆使して各設備の使役を隈なく案内して下さり、すれ違う社員の名前を呼び、近々の話題を掛け合っている姿を見たときに、間違いなく共に「成長」出来るパートナーだと確信しました。所有者として選んだというより未来へ引き継ぐ価値のある会社として「選ばれた」という気持ちです。
M&Aは従業員や顧客にとってより良い未来を実現するための手段。パートナーの存在で会社はより成長する。
Q. M&A後、会社にどのような変化がありましたか。
「所有」と「経営」の分離の目的は「家業」から「事業」への組織改革です。決め事はオーナーの感情でなく客観的視野に基づく事が必要であり、M&A後は”主従” でなく”対等” である「所有のプロ」と「経営のプロ」の二刀流で主観と主観を照らし合わせて客観となる意思決定が実践できる組織体となりました。
また私の理想的経営体制(増山社長就任)も二つ返事で承諾頂き、週一回の経営会議/月一回の取締役会にて会社の課題や進捗状況を透明化し客観的な意思決定も可能となりました。
さらにITツールを活用した経営管理が導入され、売上やコスト構造の分析が容易になり全従業員に共有化することで各自の参加意識が高まりました。その結果、勤務規則の改定や1分単位の残業計算、休日の充実、改善提案制度の制定等に繋がり、従業員が安心して働ける環境も整いつつ、今年は3名もの従業員が入社しました。
私では絶対出来なかった事が達成できたのもM&Aを実施した有形効果の一つだと感じています。
Q.同じような悩みを抱え、M&Aを検討しているオーナーに伝えたいことはありますか。
私はオーナーとして所有能力(組織体を守る)と経営能力(リスクを背負って挑戦し成長する)は二律背反していると感じています。経営のプロに専念出来ている今の環境は、辛抱強く理念を譲る事無く貫いた上での御縁により、在るべき姿へ整ったと言えます。パートナーと次世代の後継者を据える事で、自身の人生の棚卸を整えることが出来ました。創業者の二代目という宿命を背負い、運命として切り開いてきましたが、今までは父の人生の延長を担ってきた感を強く思います。
これからはオーナー自身の人生を犠牲にして「会社を守る責任」を抱え込む環境ではないと考えます。M&Aは、会社をさらに成長させ、従業員や顧客にとってより良い未来を実現するための手段です。もし、現在の経営により付加価値を求めるのであれば、ぜひ一度M&Aの可能性を考えてみてください。